お店の考え方

購入後に起こること

楽器を購入した後の心配事としては、大きく2つ有るように感じます。
大事な楽器のメンテナンスと、数年後、楽器を取り換えたくなったらどうするか?です。

メンテナンスについてですが、基本的には、掃除と消耗品の交換だけです。それ以外は、殆ど必要がない事が多いです。
もし不具合が出たときに、特に古いものは、メンテナンスがまずかったのかな?なんて話になります。
しかし、実際は、自分が生きている間(約50年とします)で、発生する問題はメンテナンスの良し悪しではなく、その物自体が抱えていた問題がたまたま上手くいっていた期限が切れて顕在化しただけと考えた方が良いでしょう。
つまりメンテナンスを怠ったために不具合が出たという事ではないと思います。ネット上などに根拠のない噂話として、古い楽器は暫く弾いていると壊れるのでやめた方がいと聞いていますが本当でしょうか?という質問を頂きますが、それは誤解だと思います。
もし気を配る点が有るとすれば、楽器自体をある程度衝撃から守ってあげる、必要以上の水分にさらされないように気を配る。極端な高温の中に長時間放置しないなどが挙げられます。それらの事が楽器に降りかかると、あとから影響が出る場合があります。
それはご本人保管の悪さが原因であってメンテナンスのせいではありません。

弦楽器屋は、もし不具合が発生したらそのお店が調整や修理をせずにいわゆる横流しのやり方で販売した以上、自身の負担で修理をすべきだと思います。それは、原因が使用者ではなく、製作者もしくは以前の修理者にあるからです。100年前の製作、修理であっても専門家として確認、強度の見通しが甘かった為に、そのような不具合が発生し防げなかったと言えます。古い楽器を扱う楽器商も鑑定(査定)も万全とはいえないので見落としも有ると思います。そこからは、それに対する販売する側の責任の取り方だと考えます。

近年まで(1990年バブル経済前)は、情報も消費者よりは販売側が圧倒的に持っていて、そこに漬け込んで高い修理代金をとるといったような商売で利益を確保していた業者も、存在したそうです。その為、古いものはメンテナンスが大変、修理品は危ないなどの根拠の無いうわさが残っているようです。不具合が、発生したら堂々と購入した楽器店に直してもらうべきです。(当たり前ですが、管理上で不具合が発生したというのは論外ですが。)普通のお店ならば、不備を詫びて、丁寧に修理してくれるはずです。本来は、当たりまえの事ですが、買い手が弱い立場の場合には付けこまれてしまいます。不具合の修理に関してはお店側がどこまで保障してくれるかは購入の際に確認しておくことは必要かと思います。
不具合の保証に口ごもるお店は、自分で直せない場合(修理工房がない、職人との雇用関係がない)外注への依頼となり経費が掛かるので出来るだけ避けたいというのが理由です。そのような、所で古い楽器を購入するのは避けた方が懸命だと思います。

楽器の管理ですが、ご自身で長い間放置せず、楽器に常時触れている方は、メンテナンスとして軽くほこりや松脂を取り除く掃除以外必要はありません。2~3年まったく触らなかった方は、弾く前に音を上げてみて気になるなら専門家にみてもらうといいでしょう。

それではもうひとつの心配事、もし楽器が気に入らなくなったらどうするか。
楽器を購入する時は、楽しいのです。お客様も、お店も両方が納得して販売が成立するからです。利害も一致してお互いにニコニコ顔です。しかし、時間や腕前が上達したりして購入したものが、腕前に合わなかったり、だんだん気に入らなく感じ始めるとそこから苦悩が始まります。
あの時は、気にいっていたのですが、どうもバランスが悪い、音が出ない、他の人の楽器が良く思えるなどなど、残念ながら他の章で記載されていますがその楽器に対する愛情(恋?)が終わってしまったのです。別のパートナーがほしくなってしまったのです。これが、人間だと大変なことなのですが、楽器は道具なので、案外、飽きてしまっても罪の意識はありません。(余裕のある方は、もう一台他も所有したい場合もあるでしょう。)

そこで、大抵の場合は、その楽器を交換や処分したらどうなるのかと思いを巡らせるのです。勿論、購入したお店に相談しそこで他に気に入ったものがあればそれと条件(下取りを含めた追加の金額等)をつけて交換となるのが一番いい方法で、お客様もお店も再度うれしい合意となります。
それ以外は、それを他店に持ち込むか、購入したお店で買い取ってもらうことが考えられます。大きなお店では、買取りのみは、行わないところもあるようです。お店によりますが、他店で買ったものを新規で購入を前提とした下取りとして取ってくれるところもございます。他店の物を、現金に買えるために買い取り希望だけの取引となると殆どのお店が断ることになるでしょう。

その大きな理由として、他の章で、説明しましたが、いわゆる高額商品でないものは、真作ではないので道具としての価値で査定をされます。コンテンポラリーの真作は、数が多いので実際は、供給過剰気味で各お店とも仕入れは必要ないのが現状です。
お客様側はなんとか高い金額で処分し、新しい物を購入したいと思いを巡らせます。しかし、殆どの楽器(高額商品以外)は、美術品的な要素は期待できないので、査定は道具としての価格となります。期待されている値よりもかなり低い査定となりなるのが自然です。査定は各店の状態などによりますが、自分の想像より低い査定をされた場合、極端な考えの方は、買ったお店にだまされたという感情を抱く事になります。
悪い感情を抱く多くは、所有者が自分の弦楽器は、価値が落ちないと思い込んでいる場合です。しかし、実際は、お店はそれを何処かで仕入れるといくらぐらいで再販できるだろうか?という点が査定のポイントになります。
そこでは、あくまでその楽器を仕入れ販売する為の交渉となり、互いに対等の立場になります。当然利害は対立するので、売る側は、なるべく高く処分したいと思いますし、買う側は、自分の査定に近くなければ仕入れたくないのです。
お客様は、買った値段イコールそのものの価値と考えがちですが、どんな商品でも、販売管理費や利益などお店を営む上で、必要な利益がのっています。楽器の購入の際は、何本も試奏して決めますので、お店もある程度在庫が必要です。弦楽器屋だけ出なく、何かを購入する際に、すべての分野においてお店の利益や運営経費、在庫経費、税金などを含めたものを購入しているのです。それは、弦楽器でも変わりはありません。
そこを、弦楽器だけ特別と考えてはいけません。その思い込みが、弦楽器屋への誤解を招く原因です。弦楽器屋をしていて気づくことは、最初から予算の範囲で道具として割り切って購入している方は、勘違いを起こさないのですが、ラベルや真贋などにこだわり自分だけは、当たりくじを引きたいと願っている人は、残念ながら外見ばかりの道具としては良くないものを購入してしまう傾向にあります。

楽器の買い替えの理由は、後に音色が気に入らなくなる場合が殆どです。外見やラベルが気に入らなくて、買い換えたいのではなく、道具として音色や鳴り方、音の感じが自分に合わないなどの使用上の違和感が楽器交換の最大の理由です。
楽器を購入する際の、極意は、単純ですが、外見にとらわれることなく、自分の気が入ったものを選ぶべきです。(高額な楽器の場合は除きます。)もし気に入ったものがあれば、今度はお店が将来も含めて信用できるかどうか、ご自分の人生の経験をいかして査定判断します。弦楽器のような高額商品を購入する際には、お店も商品と同じように選ばなければいけないと思います。選んだ楽器が予算の範囲内で、お店とも肌が合うようでしたら納得出来れば思い切って、購入してしまうのです。
弦楽器は、同じ物に出会うことはないと思います。つまり、出会いです。後戻りの出来ないカードゲームです。いつか自分には、いいカードが出てくるはずと思っているうちに、購入のチャンスを逃してしまいます。高額商品でない以上、気になる点(外見や由緒など)は目をつぶって、自分の好きな音色や感覚を大切にしてください。
そうすることができれば、購入した後に、どうしようもなく気にいらなくなったりしないのです。つまり、お気に入りのパートナーを手に入れることが出来ます。結局、弦楽器は、美術品ではなく道具として一緒に楽しむものなのですから。