古い弦楽器を選ぶ際のアドバイスと知って得する弦楽器の特徴や成り立ち

弓の良し悪し

弦楽器を演奏するにあたって、楽器本体の他に当然弦楽器の場合弓が必要となります。素晴らしい演奏をするのに、弦楽器自体のレベルも大切なのですが、弓もこれまた音に想像以上に影響しているものです。プロ級の腕前の方は別にして一般の演奏者は必ずといっていいほどある程度の演奏技術に到達すると、もしかして弓が違えばもっといい音色が出せるのではないか?と言う考えが頭の中を巡ります。弦楽器自体は、自分のある程度気に入った物を購入されているはずですが、弓はどちらかというとサブの道具として考えられている為、許される予算内で手にはいる物を選んで演奏に使用することが多いからでしょう。

そこで弾きての多くの場合は、たくさんの弓を試す機会に恵まれるわけもなく、我慢しながらまたこんなもんでしょうと納得しながら演奏されているのが多くの方々の現状でしょう。しかし、お客様と接していて、弓を変えるだけで随分と演奏の音色が変えられるものだなと感じることが多くあります。
特に、技術的にレベルが初心者であればあるほど弓の良し悪しの影響が出てしまう様です。そこで、ここでは弓を購入される際に気にしなければいけない点をいくつかお伝えしたいと思います。

最初に、本体の素材について気を配りましょう。弓の場合、この点が大きく品質に影響してきます。価格の問題はありますが、許されるのならば『フェルナンブーコ材』にこだわりましょう。それはその材で作られた弓は、耐久性・強さ・美しさ等々すべてにおいて優れているからです。ただ厄介なことに、その材とそっくりなブラジル材で作られた弓もたくさん市場には出回っているのです。一説には、現代ではこの二つは同じカテゴリーで扱ってもいいぐらい似ている物で、ブラジル材の最高級品がフェルナンブーコといわれる場合もあるそうです。古い弓(50年以上前)では、この2種類は区別して弦楽器市場で語られることが慣例です。

なぜフェルナンブーコが、素材として最適なのでしょうか。弓は作りのフォルムがスリムでシャープなものが扱いやすく、良い音を出しやすいと言われています。そのフォルムを実現し尚且つ引っ張られる強度に耐えられるには、結局良材でなければ弓の使用強度に対してもたないのです。弓の製作の際に、いい材であれば有るほど本体をシャープに作ることが可能です。又、仕上がりも美しくなるのです。いい弓は、必ず上級材で作られています。悪い材料では弓の強度を保てないからです。形がなんとなくボテッとしていたり、ある部分が厚かったりするものは、フェルナンブーコ材で作られたものではないのでは?と疑った方がよいでしょう。当然、現代のメーカーや工業製品で素材をうたっている商品は、問題なくフェルナンブコー材を使用しています。古い弓(100年50年前)である一定の価格(小売30万円以上位)の商品は殆どがその材で作られています。

次に各パーツについてですが、これは弓のバランスに微妙に影響するもので、後でお話する重さに関して大きく影響してきます。またその弓が高価で有るかどうか(良し悪しは別)は、各パーツが何で作られているかで外見からでも判断は可能です。指の掛る巻の部分ですが、最上級は鯨のひげです。しかしこれは現在新しくは当然手に入らない素材で大変貴重です。その他に、ニッケルの金メッキ、銀/金糸等が有りますが、どうやら金メッキの素材は重すぎる場合が多く見受けられます。毛ハコ(毛の収まっている所)と言われる部分は、ほとんどはコクタンが使われていますが、古いものの中には、ベッコウや象牙を使ったものも有ります。これも鯨同様です。指のかかる革の種類も当然それなりに区別があります。現代の評価では、バランスを考えると、パーツはコクタンと金属部分は銀製のものが良いとされています。毛については、信用できるところに毛換えを頼み、品質は価格で区別されていると考えて大丈夫です。産地を指定しての毛替えをご希望される方もいらっしゃいますが産地を特定しての毛替えは品質を保つうえでも難しくそれぞれの種類をたくさんそろえているお店は稀です。産地の見分け方はプロの職人でもかなり難しいものです。

種類 長さ 重量
ヴァイオリン 730mm 60g
ビオラ 730mm 67g
チェロ 695mm 75g
スクリューを除いたスティックの長さ

弓について大変重要な要素は、やはり重量と長さでしょう。これは、単純なので計るなり問い合わせるなりされた方が良いでしょう。

基準としては上表の様になります。許容範囲は、長さで前後2mm、重さ前後2gと言われています。バランスについては、調整によって変えられるのでそんなにはシビアでなくて良いのですが、だいたい240~250mmぐらいの所にくるものが良いようです。

憧れのオールドの弓についてですが、有名な製作者に、トルティー、ぺカットなどが挙げられるますが、そのオールドボウの当時(1700年末~1800年前期頃)のホールの大きさや奏法が基準になって製作されているのですが、現代でも通用する音量や独特の味がある音を奏でることが出来て、演奏の際に奏者がかけた腕のエネルギーが心地良い感じの音に転換する率が高いと言われています。現在の市場ではこのようなオールド弓は高すぎて(1000万円以上)ほぼ美術品的な販売価格となり所有するにはちょっと現実的ではなくなっているという残念なお知らせもあります。現実的には1900年前後のフランスのブランド弓(サルトリー、ラミー、ボアラン、フェティーク等)が手に入る最高峰で道具としてもすぐれていることで認知されており人気も高く高名な演奏家にもユーザーが多いようです。
トッププロは、表現力が命でしょうから特に弓のいいものを求める傾向は、強いと思います。ではどのくらいの価格帯の物が、適正かということですが、初級者や、本体の楽器にもあまりにこだわりのない場合は、ヨーロッパやブラジルのメーカー製、中国製の強度のある気に入ったバランスの弓を10万~15万円の中から選ばれるといいでしょう。少し道具にもこだわりがあり本体も良品のものをお使いの方は、やはり40万円ぐらいから上の価格で古いもの(50年から100年位)がより演奏の幅を引き出してくれると思います。上級者やプロの演奏家の方は道具にこだわりがあり良質の弓が必要だと思います。その場合には予算を100万円前後組まれれば、かなりの選択肢がえられるでしょう。楽器と同様ですが、有名作者の名品で、老舗オークションの記録が真作として扱われているフランス製やイギリス製の古い弓等は、小売価格で日本円換算120万円~150万円以上になると思います。

以上の点を、押さえて探されると良品に当たる確率は上がると思います。最終的に弓は、表現上非常に重要なアイテムなのでとにかく、自分にとって扱いやすいものを選ぶ事が一番大切です。楽器屋でも、案外弓はいいものが埋もれている事が多いように思います。お店自体も本体に気を取られて気づいていないのです。弓に目をむけて探されると期待以上にいい結果が得られるかもしれませんよ。